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金沢地方裁判所 昭和61年(行ウ)2号 判決 1991年3月22日

原告

橋菊太郎

外一三五名

右原告ら訴訟代理人弁護士

梨木作次郎

手取屋三千夫

田中清一

北尾強也

市川昭八郎

野村侃靱

菅野昭夫

高沢邦俊

堀口康純

加藤喜一

水谷章

岩淵正明

鳥毛美範

今井覚

畠山美智子

奥村回

本田祐司

飯森和彦

野村侃靱訴訟復代理人弁護士

川本蔵石

被告

中西陽一

被告

石川県知事

中西陽一

右被告ら訴訟代理人弁護士

堀家嘉郎

田中幹則

湯沢邦夫

米澤龍信

長谷川紘之

智口成市

被告石川県知事指定代理人

鷹栖孝夫

外四名

主文

一  原告らの

1  被告中西陽一に対する請求をいずれも棄却する。

2  被告石川県知事に対する訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

一被告中西陽一は、石川県に対し、金三億二四六〇万九二九八円及びこれに対する昭和六〇年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二被告石川県知事が、

1(主位的請求)昭和六〇年八月一九日北陸電力株式会社に対してなした海洋調査の結果の使用承諾を取り消す。

2(予備的請求)昭和六〇年八月一九日北陸電力株式会社に対し、行政財産である海洋調査の結果を使用することを承諾し、もって石川県の財産の管理を怠ったことが違法であることを確認する。

第二事案の概要

本件は、石川県の住民である原告らが、

1  石川県が、本来、原子力発電所の建設を計画している訴外北陸電力株式会社(以下「北陸電力」という。)に実施義務が課せられている環境影響調査を肩代わりすべく、同社のために海洋調査を行ったことが違法であるとして、地方自治法(以下「法」という。)二四二条の二第一項四号に基づき、石川県に代位して、右調査の実施委託契約を締結し、その費用として公金三億二四六〇万九二九八円の支出命令を発した石川県知事である被告中西陽一(以下「被告中西」という。)に対し、右費用に相当する損害金の支払を求め、

2  被告石川県知事(以下「被告知事」という。)が、北陸電力に対し、県有著作物である海洋調査の結果(報告書)の使用を承諾したことは違法であるとして、主位的に、同項二号に基づき右使用承諾の取消しを求め、予備的に、同項三号に基づき右使用承諾により同県の財産管理を怠ったことの違法確認を求めた

住民訴訟である。

一当事者間に争いのない事実

1  当事者について

原告らは、いずれも石川県の住民である。

被告中西は、石川県知事の地位にあるところ、同知事は、「県有著作物の取扱いに関する要綱」(以下「本件要綱」という。)に基づく県有著作物の使用承諾権者である。

2  海洋調査の実施と公金の支出並びに海洋調査結果の使用承諾について

(一)  石川県は、昭和五八年六月ころ、北陸電力が建設を計画していた能登原子力発電所(以下「能登原発」という。)の立地に関連する海洋調査(以下「本件海洋調査」という。)を石川県羽咋郡志賀町赤住地区付近海域において自ら行うことを決定し、昭和五九年二月八日から同月二七日までの間に、訴外新日本気象海洋株式会社、同三洋水路測量株式会社、同七尾測量設計株式会社、同財団法人日本気象協会北陸センターらとの間で右調査の実施委託契約を締結した(以下、右委託先を総称して「本件受託者」という。)。

石川県は、昭和五九年六月から昭和六〇年六月二四日までの間に、本件受託者に対し、委託料として総額金三億一五一四万円を支払い、さらに、同月末日までに、本件海洋調査の実施に伴う事務費として総額金九四六万九二九八円を支出した(以下、右委託料の支払及び右事務費の支出を併せて「本件公金支出」という。)。

(二)  被告中西は、知事として石川県を代表し、本件受託者との間で本件海洋調査の実施委託契約を締結し、本件公金支出に関する支出命令を発したものである。

(三)  石川県は、昭和六〇年六月一八日までに、本件受託者から本件海洋調査の結果が記載された報告書を受け取ったが、これと軌を一にして本件要綱を制定し、同月二〇日、これを石川県告示第三七七号の三をもって告示した。

北陸電力は、同月二四日、被告知事に対し、本件海洋調査の結果を使用したい旨申し出たところ、被告知事は、同年八月一九日、本件要綱に基づき、北陸電力の右申出を承諾した(以下「本件使用承諾」という。)。

(四)  北陸電力は、本件海洋調査の結果を利用して、能登原発の立地に関する環境影響調査書を作成し、通商産業省に提出した。

3  監査請求の前置について

原告らは、昭和六一年四月八日、石川県監査委員に対し、法二四二条一項の規定に基づき、本件公金支出及び本件使用承諾が違法であるとして、委託料相当額の損害賠償等の補填及び本件使用承諾の取消等を求めて住民監査請求を行ったところ、同監査委員は、同年六月四日、原告らの請求は理由がないとの判断を示し、原告らに通知した。

二本件の争点

〔被告中西に対する請求について〕

1  本案前の争点(原告らの被告中西に対する訴えの適法性)について

(一)  被告中西の主張

住民訴訟の対象は、その制度趣旨に照らし、財務的処理を直接の目的とする財務会計上の行為又は事実としての性質を有する事項に限られ、これらが先行行為に基礎を置く場合には、当該先行行為も財務会計上の性質を有することを必要とすると解すべきところ、本件において、原告らが本件公金支出に関して主張する違法事由は、本件受託者との間の調査委託契約の締結や公金の支出方法自体が違法であったというものではなく、本件海洋調査の目的、本件海洋調査を公共事務として行う決定をしたこと及びその決定過程等の先行行為に違法があったというものであるが、被告中西及び石川県議会が、漁業振興施策の基礎資料の収集及び将来の原子力発電所の立地が周辺海域に及ぼす影響を把握するための基礎データの収集という二つの目的をもった公共事務として本件海洋調査を行うことを決定したことは、普通地方公共団体たる石川県の政治的、政策的な判断にすぎず、何ら財務会計上の行為又は事実としての性質を有しないから、原告らが違法であると主張する行為は、そもそも住民訴訟の対象とならず、原告らの被告中西に対する訴えは、適法な訴訟類型に該当しないものとして、却下されるべきである。

(二)  原告らの主張

住民訴訟の対象は、財務会計上の行為又は事実に限られるべきではなく、その原因又は前提となった先行行為に違法事由が存する場合には、これが非財務会計行為であったとしても、右非財務会計行為の違法性を承継した当該財務会計上の行為又は事実を対象とすることができると解すべきところ、本件海洋調査の実施決定は、財務会計上の行為たる本件公金支出を招来する直接的な因果関係のある行為であるから、その違法は本件公金支出の違法性をも基礎づけ得るものであり、被告中西に対する訴えは適法である。

2  違法論(本件公金支出の違法性)について

原告らの主張する違法の根拠及びこれに対する被告中西の反論は次のとおりである。

(一)  憲法九二条、法一条に関する主張

(1) 原告らの主張

ア 憲法九二条及び法一条は、地方公共団体の運営が地方自治の本旨に基づいてなされるべき旨を定めている。

地方自治の本旨とは、住民による住民のための自治を意味するので、地方公共団体は、住民の立場で住民の利益を守り、その福祉の増進を図る責務を有するところ、本件のような原子力発電所建設の問題においては、石川県は、現在及び将来の石川県民の生命・健康を守り環境を良好に管理するため、営利企業たる北陸電力の行為を規制・監督することが地方自治の本旨に合致する。

イ ところで、原子力発電所を建設するために不可欠の手続である環境影響調査の実施義務者及び地方公共団体の役割については、既に各種の通達などによって明確に規定されている。

すなわち、次の通達などは、従来の電気事業法の事業者による環境保全対策を受けて、これをより強化したものであるが、環境影響調査の実施義務者を電気事業者と規定し、かつ、これまでの実例でも電気事業者が環境影響調査を実施してきた。

① 昭和四八年九月一二日付通商産業省資源エネルギー庁通達「発電所の立地に関する環境審査の強化について」

② 昭和五二年七月四日付通商産業省省議決定「発電所の立地に関する環境影響調査及び環境審査の強化について」

③ 昭和五四年六月二六日付通商産業省資源エネルギー庁通達「発電所の立地に関する環境影響調査要綱」

右の通達などが電気事業者を環境影響調査の実施義務者とし、かつ、実例も同様であるのは、右調査は環境を汚染する者自身によってなされるべきであるという環境アセスメントの法理から導かれる「P・P・Mの原則」並びに設置に要する費用は設置によって利益をあげる事業者によって負担されるべきであるという受益者負担の原則という極めて実質的な理由に基づくものである。

他方、電源開発促進法一一条及び前記通達などは、地方公共団体(具体的にはその長)は電気事業者が提出した環境影響調査書につき意見を述べることを定め、地元住民の生命・健康を守り住民の福祉の増進を図るため、電気事業者による環境破壊などを規制することを地方公共団体の役割としている。

したがって、地方自治の本旨からすれば、環境影響調査は、飽くまで電気事業者が義務としてこれを実施し、地方公共団体は、公正中立な第三者として、住民の立場から、電気事業者が実施した環境影響調査をチェックし、規制する機能を果たすべき立場にある。

ウ ところが、本件海洋調査は、次に述べるとおり、本来北陸電力が義務として実施すべき環境影響調査を石川県が肩代わりして行ったものである。

① 能登原発の建設計画は、昭和四二年に発表され、同四五年には建設用地の第一次買収を一応終えたものの、第二次買収は地元住民の強い反対により完了せず、環境影響調査に至っては、同五二年一〇月に北陸電力から関係各漁業協同組合に対してなされた海洋調査実施の承諾要請に対し、訴外西海漁業協同組合(以下「西漁業協」という。)が反対し、訴外西浦、富来湾両漁業協同組合が態度保留などの対応をとったため、北陸電力自身による海洋調査の実施が全く目処の立たない状況にあった。

② このような状況下で、被告中西は、石川県知事として、昭和五八年五月一九日ころ、強固な能登原発建設反対派であった西海漁協に対し、石川県が本件海洋調査を実施する旨の「念証」を差し入れ、これによって初めて本件海洋調査の実施が可能となった。

③ そして、被告中西は、昭和五八年九月二八日開催の石川県議会において、本件海洋調査に関し、「関係漁協が、北陸電力の調査は困るが県ならば信頼して受け入れようと言っているので、県において調査する。」旨の答弁を行い、本件海洋調査は、北陸電力が実施義務を負っている能登原発建設のための環境影響調査と同一のものであることを明らかにした。

また、本件海洋調査の調査項目は、原子力発電所の建設に必要な調査項目(前記イ③の通達による海洋部分の調査項目)のうち、ボーリング調査を除くすべての項目を含み、北陸電力は、本件海洋調査の実施により、ボーリング調査を除き、独自に海洋調査を実施する必要がなくなったのであるが、このことは、当時の石川県企画開発部長日野正行が、既に昭和五九年三月一三日開催の石川県議会予算特別委員会での答弁において明らかにしたものである。

④ ところで、石川県は、本件海洋調査の目的を漁業振興のためでもあると強弁してこれを実施したが、本件海洋調査は、従来実施されてきた漁業振興のための調査に比して、実施海域が能登原発建設予定地先海域という極めて狭い海域に限定されていることや、調査項目が漁業振興のための調査にしては余りに詳細なものとなっていることなどから、異常な調査というべきである。

加えて、本件海洋調査の調査主体は、石川県企画開発部であったが、漁業振興のための調査は、従来からすべて石川県農林水産部でなされてきたことからしても、本件海洋調査の目的が、漁業振興にあるのではなく、あくまで能登原発建設のためであったことが明らかである。

⑤ 石川県は、昭和六〇年六月一八日までに本件海洋調査の結果(報告書)を受け取るや否や、これを待っていたかのように、同月二〇日、本件要綱を告示し、同年八月一九日、当初の予定のとおり、北陸電力に対し、本件海洋調査の結果一切の使用を承諾した。

その結果、北陸電力は、ボーリング調査以外に独自の海洋調査を実施することなく、石川県から入手した本件海洋調査の結果を利用して環境影響調査書を作成、提出することができた。

エ 以上のとおり、被告中西が、知事として石川県を代表し、本件受託者との間で調査実施委託契約を締結して行った本件海洋調査は、環境影響調査の実施義務者である北陸電力の肩代わりをしたものであって、地方自治の本旨にもとり、憲法九二条及び法一条に違反するものである。

(2) 被告中西の主張

ア 法二条二項は、普通地方公共団体の事務の内容、範囲について抽象的に規定し、同条三項は、その事務を例示し、同条六項は、都道府県の事務の内容及び範囲を例示しているが、右規定から明らかなように、県の事務の内容及び範囲は極めて広範囲にわたるものであって、県は、元来、地方的な公共事務すなわち固有事務を処理することを目的とし、国又は他の公共団体の専権に属するものを除くほか、住民の福祉のために各種の行政を行うことを任務としている。

したがって、県の固有事務の内容及び範囲は、公共性をもつ限り原則的に無制限というべきところ、本件海洋調査は、

① 漁業振興施策の基礎資料を得ること、

② 石川県民の安全と健康を保持するために、北陸電力が計画している能登原発の立地が周辺海域に及ぼす影響を把握するための基礎データを予め収集すること、

を目的として行われたものであり、これは、法二条六項一号「水産資源その他天然資源の保全及び開発」、同項四号「農林水産業の指導及び振興」、同条三項一号「住民の安全、健康及び福祉の保持」に該当する事務であるから、本件海洋調査は、石川県の固有事務として行われたものであり、憲法九二条、法一条に違反するものではない。

イ わが国において、現在、原子力発電所が国民生活上必要不可欠なものであることは公知の事実であるが、原子力発電所の建設に関しては、国の政策として法律上の規定(原子力基本法一条、電源開発促進法一条、二条)が設けられている。

したがって、仮に、本件海洋調査が、北陸電力による能登原発の建設を援助する目的をもってなされたか、結果的にそのような目的に利用されたとしても、それは、石川県が国の政策を助長、協力したことに他ならないのであって、本件海洋調査が違法となるものではない。

ウ 北陸電力が作成した能登原発の環境影響調査書には、「発電所の計画概要、環境の現況、環境保全のために講じようとする措置、環境影響の予測及び評価、その他環境保全のために講じようとする措置、総合評価」が詳細に記載されているところ、本件海洋調査の結果は、右調査書の内容のうち「環境の現況」を記載するための一資料となっているにすぎず、その余の記載内容は、すべて北陸電力独自の認識、予測、判断などに基づくものである。

これに対し、石川県は、県民の安全と健康を保持し、環境を保全するため、北陸電力とは別個の公正な立場に立ち、右調査書の記載内容のすべてについて、学識経験者などから構成される石川県公害対策審議会に諮問するなどして、厳正なチェックと審査を行った。

したがって、北陸電力が、本件海洋調査の結果を環境の現況を認識するための一資料として利用しても、石川県は、更に独自の立場から北陸電力の認識、予測、評価、措置などを十分に審査することができ、現にこれを行ったのであるから、本件海洋調査は、何ら違法ではない。

(二)  法二三二条一項に関する主張

(1) 原告らの主張

法二三二条一項は、普通地方公共団体の支出に関し、当該普通地方公共団体の事務を処理するためにのみ経費を支弁することを認め、それ以外の経費の支弁を認めていない。

しかして、能登原発建設手続における石川県の責務と事務は、北陸電力の行為を規制、監督して、そのチェック機能を果たすことであったにもかかわらず、石川県は、前記のとおり、北陸電力が実施義務を負っている海洋調査を肩代わりして行ったものであり、漁業振興等の目的で行ったとの主張は単なる口実にすぎないから、本件海洋調査をもって石川県の事務ということができないことは論をまたない。

したがって、本件公金支出は、石川県がなすべき事務以外のために支弁されたものであるから、法二三二条一項に違反する。

(2) 被告中西の主張

前記のとおり、本件海洋調査は、石川県の固有事務として行われたものであるから、本件公金支出が法二三二条一項に違反するものではない。

(三)  法二三二条の二に関する主張

(1) 原告らの主張

法二三二条の二は、普通地方公共団体による寄付及び補助を原則として禁止している。

ところで、本件海洋調査は、前記のとおり、北陸電力自身による海洋調査の実施が全く不可能という状況下で、公金を支出し、かつ、北陸電力に調査結果を利用させる意図の下になされたものであって、一営利企業である北陸電力による能登原発建設手続を進捗させ、北陸電力に対し、金銭に換算できない大きな利益をもたらした。さらに、本件海洋調査の結果は、現実に北陸電力によって利用されたのであるから、これは北陸電力に対する極めて大きな補助というべきである。

したがって、本件海洋調査の実施は、石川県から北陸電力に対する利益供与に該当するから、本件公金支出は、法二三二条の二に違反するものとして違法である。

(2) 被告中西の主張

本件海洋調査は、前記のとおり、石川県の固有事務として行われたものであり、また、本件公金支出は、調査実施委託契約に基づく債務の履行として本件受託者に対してなされたものであって、北陸電力に支払われたものではないから、本件公金支出が北陸電力に対する寄付ないし補助に該当するものでないことは明らかである。

(四)  水産業協同組合法五〇条四号、五号に関する主張

(1) 原告らの主張

本件海洋調査は、調査の方法、期間、内容などに照らして、調査海域で営まれている各種漁業を一定範囲で不可能とすることが実施前から明白であり、現に、その実施に際しては、調査海域への立入禁止措置がとられ、調査海域で営まれていた漁業が制限された。

ところで、海洋調査の実施に伴う漁場の縮小、漁種の削除、漁期の短縮・変更などは、漁業権の内容の変更に該当する上に、調査の実施海域に設定された関係八漁業協同組合の各種漁業権の行使に関する各漁業協同組合又は各組合員の合意による詳細な漁業権行使規則の変更を要するものであった。

したがって、本件海洋調査を実施するためには、水産業協同組合法五〇条四号、五号が定める関係各漁業協同組合の総会における特別決議を経る必要があったというべきところ、実際には、右特別決議を経ることなく実施されたので、本件公金支出は手続的にも違法である。

(2) 被告中西の主張

水産業協同組合法四八条一項は、漁業協同組合の総会の議決事項を規定し、同法五〇条は、右総会の特別決議事項を規定しているところ、原告らの主張は、関係漁業協同組合の総会運営における違法の主張にすぎず、被告中西の行為に関する財務会計法規違反の主張ではないから、住民訴訟の要件である違法とは関係のないものであり、主張自体失当である。

なお、水産業協同組合法五〇条四号にいう漁業権又はこれに関する物権とは、漁業権や漁業権を目的とする抵当権などを意味するが、本件海洋調査が漁業権設定区域内における各種観測機器の設置を伴ったとしても、それは一時的かつ限定的なものにすぎないから、物権の設定、変更に該当せず、漁業権を変更、消滅させるものでもない。したがって、関係漁業協同組合は、本件海洋調査の実施に際し、漁業権の変更などをする必要がないのであるから、総会における特別決議を経る必要も存しない。

また、本件海洋調査は、同条五号所定の漁業権行使規則又は入漁権行使規則の制定、変更及び廃止を要するものではなく、これらとは無関係である。

(五)  憲法一三条、二五条に関する主張

(1) 原告らの主張

本件海洋調査などを経て建設される能登原発は、それ自体、安全性の確認がなく、チェルノブイリ原子力発電所の例に見られるように、事故が発生すれば地元住民のみならず石川県民全体の生命を危険に陥れるものであり、また、その運転によって排出される各種放射性廃棄物の処理、処分、廃炉の処理などの問題が未解決のままであって、能登原発の建設、運転による住民の生命、健康への危害と良好な環境への影響は、住民の生存権及び環境権(憲法一三条、二五条)を侵害するものである。

したがって、能登原発建設手続の一環である本件海洋調査は、憲法一三条及び二五条に違反するものであるから、本件公金支出も違法である。

(2) 被告中西の主張

本件海洋調査は、前記のとおり、能登原発建設手続の一環として行われたものではない。

また、憲法一三条、二五条は、国の国民に対する責務を定めたプログラム規定である上に、環境権の具体的内容、範囲などは明らかでなく、本件海洋調査が住民の生存権を侵害するとは到底考えられない。

さらに、北陸電力が予定している能登原発の建設は、国などによる各種の審査、審議及び許認可手続を経て、その安全性が確認された上で進められるものであるところ、国は、現段階において、能登原発の安全性について何らの判断も示していないのであるから、原告らが本件公金支出の違法性の前提問題として、能登原発の安全性などに関する判断を裁判所に求めることは失当である。

3  損害論(本件公金支出により石川県に損害が発生したか)について

(一)  原告らの主張

被告中西は、前記のとおり、本件海洋調査の実施のために合計金三億二四六〇万九二九八円の公金を支出し、もって、石川県に同額の損害を被らせたものである。すなわち、

(1) 本件海洋調査の結果は、石川県や同県民にとって何らの有用性、価値のないものである上、本件受託者との調査実施委託契約は、前記のとおり、違憲、違法なものとして無効であるから、石川県は、その結果(報告書)を有効に取得することができない。

(2) また、後日、北陸電力から本件海洋調査の結果の使用料を納付されたとしても、

ア 後述のように、北陸電力に対する本件海洋調査の結果の使用承諾は違憲、違法なものとして無効であるから、石川県は右使用料を有効に取得し得ない。

イ 本件公金支出と北陸電力からの使用料納付は、それぞれ別個独立の法律関係に基づくものであるから、両者の間に補填関係は存在しない。

ウ 住民訴訟は地方財務行政の適正な運営を確保することを目的としたものであって、本件海洋調査のように、一私企業にすぎない北陸電力のための数々の手段を弄してその便宜を図ったことにより、著しく地方公共団体の財務会計の管理、運営の公正を害し、県民に甚だしい自治体不信の念を与えた事案においては、使用料の納付によって軽々に損害が補填されたとみるべきものではない。

現に、本件海洋調査を行うについては、多数の県職員が関与し、多大の人件費が支出されている他、本件公金支出がなければ、より住民のニーズの高い行政目的に活用できた可能性もある。

以上の次第であるから、損害の発生が否定されるべきではない。

(二)  被告中西の主張

(1) 石川県は、本件受託者から、本件公金支出の対価として、これに見合う価値を有する本件海洋調査の結果(報告書及び著作権)という財産を取得したから、同県には本件公金支出による損害が発生していない。

(2) 石川県は、昭和六〇年八月二三日、北陸電力から、右調査結果を使用させる対価として、支出した公金(及びこれに法定利息相当額を加えた金額)を上回る金三億四七〇〇万円の納付を受けたところ、右は本件公金支出と密接不可分の関係にあるから、石川県が本件海洋調査のために支出した公金は、その金額が補填されたのであり、同県には損害が発生していない。

〔被告知事に対する請求について〕

4  本案前の争点(原告らの被告知事に対する訴えの適法性)について

(一)  被告知事の主張

本件海洋調査の結果は石川県の普通財産であるから、これが行政財産であることを前提とする原告らの被告知事に対する訴えは不適法である。

すなわち、

(1) 本件海洋調査は、石川県の固有事務として行われたものであるが、その結果は、石川県自身が直接その行政目的のために使用するものではなく、同県が漁業振興施策を決定し、また、県民の安全と健康を保持するため、能登原発の立地が周辺海域に及ぼす影響を把握して同県が能登原発に対する種々の政策を決定するための基礎資料となるものであって、同県の政策決定の基礎資料として間接的に役立つ財産にすぎないから、普通地方公共団体などの行政主体が、その事務又は事業を執行するため直接使用することを本来の目的としている公用財産(行政財産)ではなく、普通財産である。

(2) また、石川県は、本件海洋調査の結果として、著作物としての海洋調査報告書等及びその著作権を取得したが、両者は区別されなければならず、右調査報告書等が間接的に行政目的に使用されるからといって、右著作権が行政財産となる理由はない。著作権を普通財産とするか行政財産とするかは、知事の権限に属するものであるが、右調査報告書等の著作権は、石川県において、普通財産として管理されている。

したがって、本件使用承諾は、普通財産の使用を承諾したものにすぎず、私人による財産の管理行為と異なることのない私法上の行為であって、行政処分に該当しないのであるから、原告らの被告知事に対する訴えは、法二四二条の二第一項二号が定める訴訟類型に含まれない不適法なものであり、訴えは却下されるべきである。

(二)  原告らの主張

本件海洋調査の結果は石川県の行政財産であり、被告知事がした本件使用承諾は行政処分である。すなわち、

(1) 公用財産は、法二三八条二項によって、行政財産と普通財産とに分類されているところ、同条三項によれば、行政財産とは、普通地方公共団体において公用又は公共用に供し、又は供することと決定した財産をいい、普通財産とは、行政財産以外の一切の公有財産をいう。

そして、行政財産は、普通地方公共団体がその事務を執行するために直接使用することを本来の目的とする公用財産と、普通地方公共団体がその住民の利益のために一般的に共同使用させることを本来の目的とする公共用財産からなるのに対し、普通財産は、特定の行政目的のために供されるものではなく、普通地方公共団体が一般私人と同様の立場でこれを保持し、主として、経済的価値の保全・発揮によりその管理・処分から生じた収益を地方公共団体の財源に充てることを主目的とする財産である。

(2) ところで、石川県の説明によると、本件海洋調査は、同県がその固有事務に基づいてなしたものであるところ、固有事務とは、法二条二項の定める公共事務であり、普通地方公共団体の固有にして本来的な事務であって、その存立基盤たる事務であるから、その執行の成果たる本件海洋調査の結果は、その固有事務の目的、すなわち、特定の行政目的を遂げるために直接使用されるべきであり、その管理処分による収益を目的として使用されるべきではない。

したがって、本件海洋調査の結果は、公用財産として、行政財産に該当する。

(3) また、石川県の説明によると、本件海洋調査は、漁業振興施策の基礎資料を得ること及び県民の安全と健康を保持するために、北陸電力が計画している能登原発の立地が周辺海域に及ぼす影響を把握するための基礎データを予め収集することを目的として行われたものである。

右説明を前提にすれば、本件海洋調査の結果は、当然、右目的のために使用されなければならないところ、右目的のための使用は、その経済的価値の保全・発揮による収益を目指すものではなく、普通地方公共団体の本来の事務の執行を目指すべきものであるから、本件海洋調査の結果は、行政財産に該当する。

(4) 普通財産と行政財産との区別は、当該財産の取得目的及び性質などから客観的に定められるべきものであり、知事によって主観的に定められるものではない。

5  違法論(本件使用承諾の違法性)について

原告らの主張する違法の根拠及びこれに対する被告知事の反論は次のとおりである。

(一)  法二三八条の四に関する主張

(1) 原告らの主張

本件海洋調査の結果は、前記のとおり、行政財産というべきところ、本件使用承諾は北陸電力に対する貸付けの形態をとっているから、行政財産の貸付け、譲与などの処分を原則的に禁止している法二三八条の四第一項に違反する。

仮に本件使用承諾が北陸電力に対する使用の許可であるとしても、法二三八条の四第四項は、行政財産の使用の許可につき、当該行政財産の用途又は目的を妨げない限度においてのみ許される旨規定しているところ、本件使用承諾は、北陸電力のために、漁業振興とは相いれない原子力発電所建設への便宜を図り、これを援助促進させるものであり、また、石川県に課せられた北陸電力の能登原発建設計画を規制、監督することにも逆行するものであるから、石川県が主張する、漁業振興施策及び能登原発が周辺海域に及ぼす影響の把握という本件海洋調査の目的を妨げるといわざるを得ず、法二三八条の四第四項の定める例外的な場合に該当しない。

(2) 被告知事の主張

前記のとおり、本件海洋調査の結果は普通財産であるから、原告らの右主張は、前提を誤ったものであり失当である。

(二)  法九六条一項四号、二二八条一項に関する主張

(1) 原告らの主張

被告知事は、本件使用承諾に際し、条例によることなく、本件要綱に基づいて定めた金額を使用料として納付させたが、これは、使用料の徴収及び徴収方法は条例で定めなければならない旨規定する法九六条一項四号、二二八条一項に違反するものである。

(2) 被告知事の主張

前記のとおり、本件海洋調査の結果は普通財産であるところ、被告知事は、法二三八条の五第一項及び本件要綱に基づいて本件使用承諾をしたものであり、何らの違法も存しない。

(三)  法二三二条の二に関する主張

(1) 原告らの主張

北陸電力は、昭和五八年当時、独自の環境影響調査の実施が不可能な状況にあり、また、仮に独自の環境影響調査を実施し得たとしても、そのための費用は金三億四七〇〇万円程度にとどまらなかったものとみられる。

ところが、北陸電力は、本件使用承諾により、独自の環境影響調査を省くことができ、また、その費用も予定より低い金額で賄えたのであるから、本件使用承諾は、石川県の北陸電力に対する寄付又は補助に該当する。

ところで、法二三二条の二は、普通地方公共団体が行う寄付又は補助を公益上の必要がある場合に限定して認めているところ、本件使用承諾は、能登原発の建設を促進し、ひいては能登原発の操業による住民の生命、健康への深刻な影響及び漁業資源や自然環境への甚大な影響をもたらすものであるから、公益上の必要が存在しないことは明らかであって、法二三二条の二に違反する。

(2) 被告知事の主張

石川県は、本件要綱三条の規定に基づき、金三億四七〇〇万円を納付することを条件として、北陸電力からなされた本件海洋調査の結果の利用申出を承諾したところ、北陸電力は、昭和六〇年八月二三日、右金員を同県に納付したので、同県は、右金員を昭和六〇年度九月補正予算に諸収入として計上し、一般歳出に充てた。

したがって、本件使用承諾は、対価を得て行われたものであるから、北陸電力に対する寄付又は補助に該当しないことが明らかである。

(四)  憲法九二条、法一条に関する主張

(1) 原告らの主張

本件海洋調査は、前記のとおり、本来、北陸電力自身が行うべき環境影響調査を肩代わりしたものであって、地方自治の本旨にもとり、憲法九二条、法一条に違反するものであるが、本件使用承諾は、この肩代わりの最後に位置し、いわば肩代わりを完成させる行為であるから、同様に憲法九二条及び法一条に違反する。

(2) 被告知事の主張

本件海洋調査が憲法九二条及び法一条に違反しないことは、被告中西の前記主張のとおりであり、本件使用承諾も同様である。

(五)  憲法一三条、二五条に関する主張

(1) 原告らの主張

本件使用承諾は、北陸電力による能登原発建設計画を促進させるものである。しかし、原子力発電所は、未だ、安全性の確保がなされていないのみならず、その運転によって排出される各種放射性廃棄物の処理、処分、廃炉の処理などの問題が解決不能又は未解決のままであり、能登原発もこの例外ではない。

したがって、本件使用承諾は、住民の生命、健康及び環境に重大な影響を与える行為に連なるものであって、生存権及び環境権を侵害し、憲法一三条、二五条に違反する。

(2) 被告知事の主張

本件海洋調査におけると同様の理由により、本件使用承諾も憲法一三条、二五条に違反しない。

6  損害論(本件使用承諾により石川県に損害が発生したか)について

(一)  原告らの主張

(1) 法二四二条二第一項二号、三号の規定に基づく住民訴訟においては、損害の発生を要件とすべきではない。

仮に損害ないしその可能性を要件とするとしても、地方自治制度への信頼の回復という住民訴訟の機能に鑑みると、それは金銭的なものに限定すべきものではなく、自治体の財務会計に関する管理運営の公正さの侵害という抽象的なものも含むと解すべきである。

(2) 本件海洋調査の目的として石川県が説明するところは、前記1二(2)ウのとおりであるが、能登原発の建設と漁業振興とは完全に矛盾し、両立し難いものであり、また、能登原発の立地が周辺海域に及ぼす影響を把握するためという点についても、本件海洋調査の結果を能登原発の建設主体である北陸電力に予め提供し、これに基づいて環境影響調査書を作成することを可能ならしめることによって、基本データを共通にする本件海洋調査の結果を用いて北陸電力の建設計画を規制、監督することは意味を失うこととなった。すなわち、本件使用承諾により、本件海洋調査の結果は、その資料が本来有している使用価値を損なわれたことになるから、同県がその資料作成に費やした費用金三億二四六〇万九二九八円は、その全額が損害となる。

また、本件使用承諾は、前記のとおり、北陸電力自身が行うべき環境影響調査の肩代わりを完成させる行為であり、本件海洋調査結果を一私業の便宜のために使用させたものであるところ、右行為は、石川県における財務会計の管理、運営の公正を害したばかりでなく、県民に甚だしい自治体不信の念を植え付け、民主主義の根幹をなす地方自治制度への信頼を大きく損なわせたのであって、その損害は、筆舌に尽くしがたく、少なくとも金三億二四六〇万九二九八円を上回ることは明らかである。

(3) なお、北陸電力の使用料支払についても、前記のとおり、本件使用承諾が違法、無効である以上、石川県はこれを返還する義務を負っているから、損害の解消といえないことは叙上のとおりである。

(二)  被告知事の主張

法二四二条の二第一項二号、三号の規定に基づく住民訴訟においても、損害の発生を要件とすべきであり、石川県は、本件使用承諾の対価として、北陸電力から金三億四七〇〇万円の納付を受けたのであるから、同県に本件使用承諾による損害は生じていない。

第三当裁判所の判断

〔被告中西に対する請求について〕

一本案前の争点(争点1)について

住民訴訟の対象は、法二四二条一項所定の財務会計上の行為又は事実としての性質を有するものに限られると解されるが、本件訴訟において、原告らが対象とする被告中西の行為は、同項に掲げられた公金の支出(法二三二条の四に基づく公金の支出命令)であって、これが財務的処理を直接の目的とする行為、事実自体であることは明らかである。

被告中西は、原告らが本件海洋調査の実施に至る政策決定自体の適否を問うているとの理解の下に、かかる非財務的事項を対象とする本件訴訟は不適法である旨主張するが、原告らはこのような内部的な意思決定の段階における行為、事実を住民訴訟の対象とするものではなく、外部的に成立した調査実施委託契約(債務の負担を伴う契約の締結が財務的事項に含まれることはいうまでもない。)の履行としてなされた委託料の支払及び調査実施に伴う事務費の支出が違法であるとして、これを住民訴訟の対象としていることはその主張自体から明らかである上、被告中西の右本案前の主張は、本来、本案の問題として論ずべき違法性の承継の議論と住民訴訟の対象の問題を混同したものというべきであるから、採用できない。

二違法論(争点2)について

1 まず、本件海洋調査に至る経緯等について判断するに、前記当事者間に争いのない事実に、<証拠>を総合すると、次の各事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一) 北陸電力は、昭和四二年、能登原発の建設計画を発表し、当初の計画では、石川県羽咋郡志賀町字赤住と同郡富来町福浦とにまたがる地域を建設予定地として、右地域における土地の買収を進めたところ、赤住地区における土地の買収は昭和四五年八月ころまでに完了したものの、福浦地区における買収が土地所有者の同意を得られず難航したため、同年一〇月ころ、福浦地区における土地買収を断念し、当初の計画を変更して建設予定地を赤住地区のみに限定した上、同地区における土地の追加買収を進めることとした。しかし、第一次買収との買収条件の相違、炉心から部落への距離の接近等から、住民の中の反対論が強まり、右追加買収は予定どおり進捗せず、北陸電力は、計画の一部手直しを余儀なくされるなどの事態に至った。

そして、赤住地区においては、昭和四七年五月ころ、石川県の反対を押し切って原発立地の賛否を問う住民の投票が実施されたが、住民間にしこりを残すとの理由でその中止を求めた同県の説得により、開票されることなく投票用紙は廃棄され、また、同年六月ころ、原発予定地に対する換地処分をめぐって、土地改良区において紛議が生じたりするなど、賛成派の住民と反対派の住民との間の軋轢も強まっていった。

(二) ところで、発電所の設置工事は、原則として、事前に工事計画に関する通商産業大臣の認可を受ける必要があるところ(電気事業法四一条、同法施行規則三一条)、通商産業省は、「発電所の立地に関する環境影響調査及び環境審査の強化について」と題する昭和五二年七月四日付省議決定に基づき、原子力発電所などを設置しようとする者(以下「電気事業者等」という。)に対し、環境影響調査を実施し、環境影響調査書を同省に提出するよう指導している。

また、同省は、右省議決定の趣旨を徹底するため、昭和五四年六月二六日、「発電所の立地に関する環境影響調査要綱」などが添付された「発電所の立地に関する環境影響調査及び環境調査の実施について」と題する通達(五四資庁第八七七五号、以下「本件通達」という。)を定め、電気事業者等に対し、環境審査の実施に伴う必要な措置に協力するよう要望しているが、右通達は、環境影響調査に関する基本方針を「環境影響調査は、対象発電所の立地に伴い、環境に及ぼす著しい影響について事前に十分に把握することにより、対象発電所の設置の場所及び工事の場所並びにそれらの周辺における環境の保全を図ることを目的とする。電気事業者等は、対象発電所の設置に先立ち、①大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭等公害の防止に係る項目、自然環境の保全に係る項目及びその他の項目につき、対象発電所の設置の場所及び工事の場所並びにそれらの周辺における環境の現況の調査を行い、②対象発電所の設置及びその工事に関し、環境保全のために講じようとする対象を踏まえた影響の予測及び評価を行い、その結果を影響調査書としてとりまとめるものとする。」としている。

(三) 北陸電力は、右省議決定、本件通達などに基づく通商産業省による指導、要望を受け、能登原発の建設手続の一環として環境影響調査を実施するために、建設予定地先海域における海象、海生生物の状況などを内容とする環境の現況を調査する目的で、昭和五二年一〇月ころ、右海域における漁業権を有する志賀町、高浜、柴垣、羽咋、西浦、西海、富来湾、福浦港などの各漁業協同組合に対し、右調査の実施に関する同意を要請した。

ところが、右各漁業協同組合のうち、志賀町、高浜、柴垣、羽咋、福浦港各漁業協同組合は、いずれも調査の実施に同意したものの、残りの三漁業協同組合はこれに同意せず、中でも西海漁協は、従前から原発立地に反対する意思を明らかにし、要請のあった右調査の実施に対しても総会決議や各種陳情、請願等の行動を通じて強い反対を表明し、再三にわたる北陸電力からの働きかけにもかかわらず、その意思を変更しなかったことから、結局、右調査の実施は、目処が立たない状態に置かれていた。

(四) 他方、能登原発の建設計画に対する石川県の対応については、被告中西が、昭和五七年七月一日開催の県議会本会議における知事としての答弁において、「海況調査につきましては、県漁連におかれましても、原子力発電所の凍結を決議されておりますけれども、なおよくお話申し上げながら、原子力発電所について私は必要とあらばどこでも出向くつもりでございますので、ぜひとも皆さんの御協力をいただきたいのであります。若干ずつ動いているようであります。」と発言した上で、原子力発電は公害を出さないクリーンなエネルギーであり、将来のエネルギー源は原子力だと思われ、原子力汚染という問題はないと確信しているなどと述べるなど、基本的にはこれを積極的に推進する立場に立つことを明らかにしており、県議会も、同年一二月一四日、住民不安の払拭に最大の努力を払われ、地域の発展と住民福祉の向上に十分配慮した原子力発電所の建設を強く推進されるよう要望する旨の「能登原子力発電所建設促進に関する決議」を可決して、知事と同一歩調を取ることを宣言していた。

(五) このような状況において、原発立地反対の急先鋒であった西海漁協は昭和五七、五八年ころ、次第に孤立するようになり、その組合長川辺茂は、県が権限を有するまき網漁の許可や共同漁業権の更新をめぐる対応に苦慮し(同五八年二月に退任)、事態の打開を、根上町長であり、同漁協の顧問でもあった森茂喜に依頼することになった。

森茂喜は、石川県の意向を酌んで仲介に努め、その結果、被告中西は、海洋調査を実施するに当たっては、沿岸振興特に漁業の振興を図ることを目的とするものであること、今後において、国のエネルギー対策上電源立地の必要性を生じたときは、地元関係漁協と改めて協議するものとし、その安全性が確認され、また、その合意を得た上でなければ推進しないことなどを内容とする昭和五八年五月一九日付「念証」を作成してこれを西海漁協組合長に差し入れ、他方、西海漁協は、同年六月二八日開催の漁業者全員協議会において、石川県が沿岸振興のために海洋調査を行うこと、右調査の内容に電源立地のために必要な調査項目を含めることを同意し、ここにようやく海洋調査実施の条件が整うに至った。

なお、被告中西は、右に関連して、同年六月開催の県議会本会議における知事としての答弁において、関係漁協から県が調査するならば海洋振興のための調査の中に含めて原発の調査を行うことについて合意が得られたので、遺漏のないように調査したい旨、また、同年七月五日開催の県議会本会議においても、地元の漁業協同組合の考え方は、同県の手で原子力発電所の関連調査を行うことが最も望ましいし、それ以外には考えられないとするものであり、これを受けて同県が調査を行うことにしたとの経緯を説明し、さらに、同県が行う海洋調査の費用の財源については、北陸電力と同県との関係においてどうすべきか検討中である旨付言している。そして、石川県の執行部による同種の意思表明は、前後に開催された県議会本会議や各種委員会においてもなされている。

(六) 石川県は、その後、自ら行うことを決定した赤住地区付近海域における本件海洋調査の調査項目などを決定するため、同県企画開発部の部長であった日野正行の下に、同部の職員及び同県農林水産部などから派遣された職員によって構成されるワーキンググループを結成し、本件通達などの検討を行った上、資源エネルギー庁とも協議し、環境影響調査書作成に遺漏がないように期した。

その結果、本件海洋調査における調査項目は、本件通達が要求する環境影響調査書作成に必要な海洋部分における調査項目のうち、地形及び表層の土壌の調査に関するボーリング調査を除くすべての項目を含むものとされ、他方、本件通達が要求するもの以外に、漁業協同組合関係者からの要望を受けて、「うるみ」、「イワノリ」及び「蒸気霧」に関する調査も付け加えられた。

なお、除外されたボーリング調査は、北陸電力が行う海洋調査に対し強硬な反対の意思を表明していた西海漁協が漁業権を有しない海域において実施されるものであって、北陸電力が、昭和五八年六月当時、石川県の手を借りることなく独自に調査することが可能なものであり、実際にも、北陸電力が自ら右調査を実施している。

(七) 石川県は、昭和六〇年六月ころまでに、本件受託者から本件海洋調査の結果報告書を受け取るとともに右報告に関する著作権を取得し、その直後である同月二〇日、本件要綱を制定、告示した。

そこで、北陸電力は、同月二四日、被告知事に対して右海洋調査の結果の使用承諾の申出をなしたところ、同年八月一九日、同知事から本件使用承諾を得たので、前記ボーリング調査以外に海洋部分における現況の環境影響調査を行うことなく、本件海洋調査の結果を基礎資料として環境影響調査書を作成し、通商産業省に提出することができた。

以上の事実によれば、北陸電力は、昭和五八年六月当時、能登原発の建設手続を進めるに当たり、本件通達が要求する環境影響調査の実施及び環境影響調査書の作成のために、原発建設予定地先海域における海洋調査を行って、海象、海生生物などの現況に関する基礎資料を収集しようとしたが、調査海域に漁業権を有する西海漁協などの同意が得られないため、それが事実上不可能な状態にあったものであり、本件海洋調査は、専ら右事態を打開するために、石川県において、将来、北陸電力に調査結果を使用させることを予定した上で、北陸電力に代わって右基礎資料を収集し、もって原発立地の手続に便宜を供与する意図で行われたものと認めるのが相当である。

この点につき、被告中西は、本件海洋調査の目的は、①漁業振興施策の基礎資料を得ること、②石川県民の安全と健康を保持するために、北陸電力が計画している能登原発の立地が周辺海域に及ぼす影響を把握するための基礎データを予め収集することにあったと主張しているところ、なるほど、本件海洋調査が「うるみ」、「イワノリ」及び「蒸気霧」に関する調査項目を含んでいること<証拠>によると、石川県(農林水産部)は、昭和六〇年六月、本件海洋調査の結果等を基礎資料として「マリノプラン21」なる漁業振興に関するパンフレットを作成していることが認められる。

しかしながら、①については、石川県が本件受託者から本件海洋調査の結果が記載された報告書のうち、主要なものを受け取った日は、昭和六〇年六月一八日であることが弁論の全趣旨によって認められるばかりでなく、右パンフレットの内容は、二一世紀の多角的水産業を視野においた諸施設構想の概要を記述したものにすぎないことに照らすと、本件海洋調査の結果が十分に反映されているか、あるいはこの程度のパンフレットを作成するについて本件海洋調査を行う必要があったかについては多分に疑問の余地があること、②についても、石川県は、前記認定に係る本件海洋調査実施の過程において、このような観点を強調しておらず、また、本件海洋調査実施以前においては、北陸電力による能登原発立地の目処が立たないことが客観的に明らかであったことに鑑みると、本件海洋調査は外形的、客観的には漁業振興や県民の安全、健康保持に関わる面を有するものの、その意図が、専ら北陸電力による原発立地を推進し、その手続上の便宜を供与することにあったとの前記判断を覆すには足りない(この意味において、原告らの主張するように、本件海洋調査が「肩代わり調査」であったということもあながち不当とはいえない。)。

2 そこで、以上を前提として、本件海洋調査の調査委託契約の締結及びこれに引き続く本件公金支出の適法性について判断する。

(一) 憲法九二条及び法一条について

憲法九二条は、地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める旨規定し、これを受けた法一条は、この法律は、地方自治の本旨に基づいて地方公共団体……の組織及び運営に関する事項の大綱を定め……地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るとともに、地方公共団体の健全な発展を保障することを目的とする旨定めていて、いずれも地方公共団体の運営が地方自治の本旨に則って行われるべきことを明らかにしている。

地方自治の本旨とは、一般に団体自治と住民自治の各要素から構成されるといわれているが、右各規定は、地方自治について定めた法の目的を一般的に宣明するにとどまり、具体的な行為規範を明らかにするものではないから、地方自治体の当該活動が違法であるか否かを判断するには、具体的な諸規定に照らして個別的に検討する必要があるというべきである。

ところで、一般に普通地方公共団体は、法二条二項に基づき、その固有事務である公共事務及び法律又はこれに基づく政令により当該公共団体に属するとされた団体委任事務の外、その区域内におけるその他の行政事務で国の事務に属さないものを処理するものであるが、同条三項に定められた普通公共団体の事務や同条六項に定められた県の事務はいずれも例示にすぎなく、これに該当しない事務であるからといって直ちに違法となるものではない上に、前記認定に係る本件海洋調査の内容等に照らすと、右調査は外形的、客観的には電源開発並びに水産資源の保全及び開発(法二条六項一号)に関わることが明らかであるから、石川県の固有事務に属する事務として行われたことを肯認できる。

この点につき、原告らは、電源開発促進法一一条や本件通達等を根拠に、原子力発電所の建設手続における環境影響調査の実施義務者は電気事業者であり、地方公共団体は、公正中立な第三者として右調査をチェックし、規制するのが地方自治の本旨に適合する旨主張するが、電源開発促進法一一条は、電源開発調整審議会がその所掌事務を処理するために必要があるときは関係知事の意見を聴かねばならないとして右審議会の手続上の義務を明らかにしたにすぎなく、知事に対して電気事業者の提出した環境影響調査書に批判的見解を述べることを求めたり、電気事業者の作成、提出する右調査書の作成の基礎となる調査の実施に一切関与してはならないとの義務を課したものとはいえない上、本件通達も、その性質上、行政庁内部の事務処理の基準を示したものにすぎず、これに反した行為が直ちに違法となるものでないことは明らかであって、他に環境影響調査の実施義務者を電気事業者に限定し、地方公共団体の関与を禁止した法令上の根拠を見出せない以上、原告らの右主張は採用し難い。

(二) 法二三二条一項について

本件海洋調査は、前記のとおり、石川県の固有事務として行われたものということができるから、その費用に充てるための本件公金支出が法二三二条一項に違反しないことは明らかである。

(三) 法二三二条の二について

本件海洋調査は、調査結果を北陸電力に使用させることを予定して行われたもので、専ら北陸電力に対する便宜の提供を意図して行われたことは前記のとおりである。

しかしながら、法二三二条の二の規定する「寄付又は補助」が財政的な観点からなされる援助を意味することは、その規定が置かれた位置からも明らかであるところ、本件海洋調査によって意図した北陸電力に対する便宜の供与が専ら原発立地を推進するために必要な手続上のものであって、これに要した費用の負担については、調査実施前から石川県と北陸電力との間で協議が行われてきたことは前記認定のとおりであること、現に、<証拠>によれば、右協議の結果に基づき、北陸電力は石川県に対し、本件海洋調査の結果を使用する対価として、同県が本件海洋調査のために支出した費用の総額(金三億二四六〇万九二九八円。なお、本件海洋調査に携わった県職員に対する給与の支払等については、これを行わなかったとしても石川県において支払を免れない性質のものであるから、支出額を算定するに当たり算入すべきものではない。)に法定利息相当額を加えた金額を上回る金三億四七〇〇万円を納付したことが認められること、これらの事実に照らすと、本件海洋調査や本件公金支出が北陸電力に対する財政上の寄付又は補助に該当するということはできない。

(四) 水産業協同組合法五〇条四号、五号について

水産業協同組合法五〇条は、漁業協同組合内部の問題である総会決議の要件を定めた規定にすぎないから、仮に、関係漁業協同組合が本件海洋調査の実施に同意する手続過程に、同条に違反する瑕疵が存したとしても、それは石川県の締結した本件海洋調査の実施委託契約又は本件公金支出の違法を招来するものではなく、原告らの右主張はそれ自体失当という他ない。

(五) 憲法一三条、二五条について

原告らは、能登原発の建設及び運転が住民の生存権及び環境権を侵害するので、その手続の一環として行われた本件海洋調査も憲法一三条、二五条に違反する旨主張するところ、原発の稼働による危険性をめぐっては活発な議論があり、現に能登原発の建設差止を求める別件訴訟(当庁昭和六三年(ワ)第四九一号、平成元年(ワ)第三二二号)においても中心的争点になっていることは顕著な事実であるが、具体的危険性と離れた生存権や環境権なるものが実定法上の権利として成熟しているか、また憲法一三条や二五条が裁判規範としての機能を有しているかについては多大の疑問がある上、本件海洋調査自体は、海洋部分における環境の現況を客観的に調査するものにすぎず、仮に能登原発の建設、運転の過程で事故発生の可能性が皆無ではないとしても、その立地手続を構成する個々の行為、活動がすべて違法性を帯びるものとは到底解されない。

以上のとおり、本件海洋調査は、石川県による「肩代わり」調査としての実質を有するものであるとして政治上の論議の対象とはなり得るとしても、被告中西がこれによって住民訴訟上の法的責任を負担するには、石川県に対する不法行為の成立が前提であるところ、叙上のとおり、本件においては、これを基礎づけるに足りる法令違反の事実を認め難く、結局、被告中西に対する請求は、その余について判断するまでもなく理由がないことに帰する。

〔被告知事に対する訴えについて〕

三主位的請求に係る本案前の争点(争点4)について

1  まず、本件海洋調査の結果の法的性質について判断するに、これが著作権としての保護を受けることは当事者間に争いがないので、法二三八条一項の定める公有財産に該当することは明らかである。そして、同条二項は公有財産を行政財産と普通財産とに区分しているところ、同条三項によれば、行政財産とは、普通地方公共団体において公用又は公共用に供し、又は供することと決定した財産を指称するものとされている。

本件海洋調査の結果が後段の要件を充たさないことは弁論の全趣旨によって認められるところであるが、原告らは、本件海洋調査は石川県の固有事務として行われたものであるとの同県の説明を前提とすれば、その結果も特定の行政目的に用いられるべき性質を有するとして、行政財産のうちの公用財産に該当すると主張する。

なるほど、前記のとおり、本件海洋調査が電源開発並びに水産資源の保全及び開発に関わるものとして石川県の固有事務として行われたことは肯認できるものの、だからといって、本件海洋調査の調査実施委託契約に基づいて得られた著作権自体が右行政目的以外に使用されてはならないということに直ちにつながるものではない。すなわち、庁舎のように、その性質上、特定の行政目的のために取得、供用された場合には、これと異なる使用形態が自ずから排斥される財産もあるが、他方で、特定の行政目的のために取得されたものでありながら、普通財産として活用することが右目的と矛盾しない財産もあり得るところ、本件において、右行政目的に供せられるべきものは、調査海域における海象、海生生物の状況などを記述した報告書たる著作物であり、これを参照することができれば、そこに記載された環境の状況を基礎資料として石川県が電源開発並びに水産資源の保全及び開発に関する政策を立案、策定することは十分に可能であるから、著作権法第二章第三節に規定された権利が右行政目的の達成に不可欠であるというものではない。

したがって、右本件海洋調査に関する著作権を普通財産として活用することは、石川県の行政目的と矛盾するものではないから、右著作権自体は独立して公用に供されているとはいえない。

結局、著作権たる本件海洋調査の結果は、公用財産たる性質を欠くものとして普通財産に該当すると判断するのが相当である。

2  ところで、普通財産の使用関係は、これを公法的に規制する法令が存しない限り、一般には私法関係とみるべきものであるところ、<証拠>によれば、本件要綱は、石川県財務規則(昭和三八年石川県規則第六七号)を補充するものとして石川県知事名で制定、告示されたものであるが、その内容は、県有の著作物を使用しようとする者は知事の承諾を得なければならないこと、知事は、承諾を受けた者に対して、経費等を勘案して定めた金額を納付させることができることなど、著作権者たる石川県が有すべき当然な権限を明らかにしているにすぎず、県有著作物の使用承諾の要件や申立に対する応答義務など、使用を希望する者の申立を権利として認めていることを窺わせるに足りる内容が規定されていないこと、現に、右承諾を得られなかった場合の不服申立手続等についても何ら触れるところがないこと、以上の事実が認められ、これらに照らすと、被告知事が北陸電力に対してなした本件海洋調査の結果の使用承諾は、公権力の行使としての行政処分たる性質を有せず、単に著作権者のした著作物の使用許諾(著作権法六三条)にとどまるものとして、私法上の契約関係に該当すると判断するのが相当である。

3  そうすると、被告知事に対する本件訴えのうちの主位的請求は、行政処分たる性質を有しない行為の取消しを求めたものであるから、法二四二条の二第一項二号の予定する訴訟類型に該当しないものとして、却下を免れない。

四予備的請求に係る訴えの適法性について

法二四二条の二第一項三号に規定するいわゆる三号請求は、「公金の賦課・徴収を怠る事実」と「財産の管理を怠る事実」とを対象としているところ、両者は行政機関が法令に基づいて負担する財務会計上の作為義務に反していること、すなわち不作為を対象とする点において共通している。

ところで、本件において、原告らが違法確認を求めた被告知事の行為は、北陸電力に対してなした本件海洋調査の結果の使用承諾であって、積極的行為を内容とすることが明らかであるから、被告知事に対する訴えのうちの予備的請求についても、前記法条の予定しない訴訟類型として、却下を免れない。

五結論について

以上の次第で、原告らの被告中西に対する請求は、いずれも理由がないので棄却し、被告知事に対する訴えは、いずれも不適法として却下すべきものである。

(裁判長裁判官加藤幸雄 裁判官古賀輝郎 裁判官西井和徒)

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